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2008年5月

戦犯は小泉内閣だけか。後期高齢者医療制度をめぐって

4月に後期高齢者医療制度(長寿医療制度)がスタートして以来、道路特定財源問題を経てもなお与党支持であった人のなかからも、政府批判が続いている。
後期高齢者医療制度の報道については、お年寄りへのインタビューが主で、お年寄りばかりでなく多くの国民が、“等身大の憤り”をもって迎えている。いま報道のなかで繰り返されているのは、与党の「広報不足・説明不足だった」という言い訳と、知らなかったお年寄りたちの悲鳴。山口2区補選の際をはじめ与党内からも批判の声が挙がっている。また小泉内閣の時限爆弾などという表現もあり、見直しされることもあってか、あたかも「戦犯は小泉内閣」という様相を呈している。
それでは、2年前に決まったというそのとき以来、制度開始が秒読みに入るまで、「なぜ私たちは知らされないままであったのか」。
これを探るため、我々は医療制度改革法案が成立した2006年6月14日、及び翌15日発行の在京新聞各社の報道(東京版)を確認してみた。
*調査対象=読売・朝日・毎日・産経(・共同通信)=見出し等添付pdf参照

★新聞各紙の記事を通読したところ──
 ■記事の趣旨は「高齢者の負担増」が中心。
 ■「後期高齢」という表現を使っているのは、共同通信のみ。
 ■保険料の「年金天引き」について、触れている記事は皆無。

ということがわかった。

すべてに目を通して感じたのは、多くの新聞社ではあまり重要視されていないニュースだったらしいこと。また、いま問題視されている「後期(高齢者)」という呼称や、滞納者に対し保険証取り上げも懸念される保険料の「年金天引き」について、問題視している記事はなかった、ということだ。
2年前のTVニュース報道については、検証の術がないが、新聞よりエンターテイメント性が重視されるメディア特性からして、あまり大きく扱われなかったことが推測されるだろう。
この時期に、医療制度改革関連法案について、積極的に報道していたのは「強行採決」の文字も躍った共産党の政党機関誌『しんぶん赤旗』。6.13の「医療改悪法案で狙う『後期高齢者医療制度』」の記事中に「年金天引き」が明記されていた。

果たして「説明不足」は政府・与党だけだったのか。
現在浮上している問題点は、なぜ報道で取り上げられなかったのか。
成立時の報道で「後期高齢者」「(保険料)年金天引き」が大きく取り上げられ、その内容が、お年寄りをはじめ国民に届いていれば、もっと早くに、世論が大きく動いたのではないか。

2007年参院選のマニュフェストをみると、自民党は「医療制度改革法に基づいた医療保険制度体系の見直しを行う」と言及しているが、民主党では争点とした形跡はない。またいま民主党が公表している「政権政策の基本方針(政策マグナカルタ)」にも、盛り込まれていない。
民主党では、制度見直しに着手した政府・与党に対し「見直しを始める前に、お年寄りの方々の心を大変傷つけたことに対して、お詫びからスタートすべき」と猛省を促した(鳩山由起夫幹事長/5月16日定例会見)。
なぜ、いまになって声高なのか。「総選挙決戦」前にみつけた「新ネタ」であることはいなめないだろう。またこの民主党の姿勢が、報道各社の報道内容に影響したのではないかと考えるのはうがちすぎだろうか。

ちなみに、本法案の閣議決定「健康保険法等の一部を改正する法律案要綱」(2006年2月10日提出)には、「市町村による保険料の徴収には、特別徴収(老齢等年金給付の支払いをする年金保険者に保険料を徴収させ、納付させることをいう。)の方法によるほか、普通徴収の方法によること。」(P27より抜粋)と明記されており、毎日新聞ではこの時点で、「後期高齢者すべて加入し、年金から保険料が天引きされる新たな高齢者医療制度を創設する」(2006.02.10東京夕刊)と報道していた。

報道・ジャーナリズムの使命は「権力監視」といわれる。
言い換えれば、国民の立場にたって、それを感じ、伝えることだろう。
多くの報道陣は、市民感覚として、何も、感じることがなかったのか。
もちろん我々は、後期高齢者医療制度の見直しに期待する者だ。
しかしあらためて、いまの後期高齢者医療制度(長寿医療制度)の「報道“量”」を振り返るとき、メディアの送り手諸氏に、「あのとき」「なぜ」を問い返したいと思うのだ。

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忠誠を尽くすべきは市民。あらためて「ジャーナリスト」考

メディアウォッチを始めてから、番組に登場する人の肩書きや役割の呼称が気になる。専門家のコメント等は○×に詳しい人と表されることもあれば、シンクタンク主宰であっても、権威付けのためか副業の大学講師と記されることもある。なかでも、報道番組視聴者にとって、いちばん馴染み深い「ジャーナリスト」という肩書きが気になる。田原総一朗(東京12チャンネル出身)も、筑紫哲也(朝日新聞社出身)や加藤千洋(現朝日新聞社)、鳥越俊太郎(毎日新聞社出身)、大谷昭宏(読売新聞社出身)も、みんなジャーナリストだ。
「ジャーナリスト」という言葉を調べてみると
「時事的な事実や問題の報道・評論を社会に伝達する活動をジャーナリズムと定義するならば」と前置きしたうえで、
「この活動を行う新聞、通信、雑誌、放送などの企業の従業員のうち、取材、評論および編集を担当する者(いわゆる新聞記者、雑誌記者、放送記者など)を一般にジャーナリストとよんでいる」(日本大百科全書)とある。ほかの辞書にも、「新聞・雑誌などの編集者・記者などの総称」(大辞林)とある。記者はすべてジャーナリストになるわけだが、どうやらメディアの肩書きでは、大新聞をはじめマスコミ記者経験者でフリーランスになった人を「ジャーナリスト」というのが主流らしい。

ところで、泥縄式ながらメディアと政治報道について解明しようとするなかで、単なるジャーナリズム批判に止まらず、マスコミ論や政治・社会理論を包括する良書に出会った。
『ジャーナリズムとメディア言説』(大石裕著・勁草書房,2005)。本書「ジャーナリズムの社会的位置づけ」の項には、社会が要請するジャーナリズムが実行するべき課題についての記述があった。

      *       *      *

1)ジャーナリズムの第一の責務は、真実を伝えることにある。
2)ジャーナリズムが第一に忠誠をつくすべき対象は市民である。
3)ジャーナリズムの真髄は、検証という作業を本義にすることにある。
4)ジャーナリズムに従事する者は、報道する対象から独立していなければならない。
5)ジャーナリズムは、独立した権力の監視役として機能すべきである。
6)ジャーナリズムは、批判や妥協が公的に行われる場を提供しなければならない。
7)ジャーナリズムは、重要な出来事を人々の利害や関心と関連させて報道しなければならない。
8)ジャーナリズムは、ニュースを包括的に、かつバランスを考えて報道しなければならない。
9)ジャーナリズムに従事する者には、自らの良心に従って行動する自由がなければならない。

出典:『ジャーナリズムとメディア言説』(大石裕著 勁草書房,2005)p23より抜粋(amazon図版)

      *       *      *

この指摘は、我々「報道とメディアを考える」メンバー個々に、あらためてメディアウォッチのための「視座」を与えてくれたことはいうまでもない。
また報道の主流が、新聞からTV番組やインターネットに移行し、報道のエンターテイメント性が強まるなかで、とくに(1)の真実を伝達する責務、(2)市民への忠誠、(3)検証作業を本義とすること等の「基本動作」、言い換えれば「倫理」は、ジャーナリスト諸氏があらためて胸に刻むべき時期であるようにも思える。

日本で「ジャーナリスト」という場合、業務内容や役割を超えて、その呼称自体が、個人の社会的評価であるかのような意味合いを含んでいるといえるだろう。
しかし、専門的職業人教育がなされる欧米ジャーナリストと異なり、日本のジャーナリストは現場でのOJTを通じて「たたきあげる」のが普通。いま報道番組で活躍しているジャーナリスト諸氏にもたたきあげの自負があるに違いない。
が、「このトレーニング(OJT)が機能不全に陥りつつあり、近年ではマスメディア業界人の技量や倫理をめぐる問題が頻発し、その必要性が叫ばれ始めている」(現代用語の基礎知識)。
放送法、業界自主ルール等のコンプライアンスはもとより、ジャーナリストとしての倫理観は、マスコミ各社の正社員記者のほか、外注制作プロダクションのスタッフに至るまで、いっそう徹底する必要があるのではないか。

明治から昭和にかけて、反権力を貫いたジャーナリスト宮武外骨は、自らの権力を悪用して私欲を働く媒体に対しては「ユスリ記者」と呼んだそうだ。

ここから得られる教訓は一つ。
ジャーナリストという肩書き(呼称)に惑わされるな、だ。

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道路特定財源とBPOへの検証要請

光市母子殺害事件について、BPOホームページで意見レポートを調べている際、「第11回放送倫理委員会議事概要」(3月14日開催)のなかで、道路特定財源をめぐる報道について、自民党が検証要請をしていたことを知った。
新聞報道等を検索してみると、2月28日NHKニュースに「テレビ朝日“道路”番組 自民『事実誤認が著しい』BPOに申し立て」とあり、2月26日のスーパーモーニング(テレビ朝日)でコメンテーターが「道路予算の5%は政治家に還元されている」と発言したことや、1月30日放送の「ワイドスクランブル」でも橋やトンネルなどに自民党の役員の名前を冠して顔写真付きで紹介するなど、偏った編集やコメントは(政治的公正を定めた)放送法に抵触するおそれがある……というものだったらしい。
しかしながら、この検証要請は、第11回放送倫理検証委員会で審議され「この番組に委員会で取り上げて是正を求めなければならないほどの放送倫理違反があるとまではいえない。以上のことから、委員会では審議・審理しないこととした。」(前掲議事概要)と、審議が見送られたことを記している。

それにしても──
光市事件報道に関する意見レポートといい、自民党が検証要請をしていたことといい(審議見送りも)、なぜ我々に届くニュースにならないのだろうか。大きなニュースになっていれば(「男児の裸」同様にWebニュースの上位にくるような)、我々視聴者は、テレビ朝日の報道内容に対し、少なくとも自民党が検証を要請するほどの内容が含まれるという認識をもつことができるだろう。

我々「報道とメディアを考える会」では、遅きに失したとはいうものの、テキスト版やブログ・映像アドレス等「おぼろ大橋レポート」を資料としてBPOに送付することを決めた。自民党の主張や放送法うんぬんというよりは、放送局への調査など、事実検証を行えるのはBPOをおいてほかにないし、BPOが視聴者保護の立場で問題に取り組み、メディア・リテラシーに資することのできる有益な組織であると信じているからだ。

ちなみに自民党の検証要請の際、細田幹事長代理が記者会見を行ったこともあり、朝日、読売、毎日、サンケイ、東京、共同通信など、新聞各紙には、記事が掲載されていた(3月1・2日)。しかしながら、いずれも200字前後のいわゆるベタ記事と呼ばれる目立たない記事。「(検証)要請」のなかみは不明だが、「申し立て」と表記をしているものも少なくなかった。BPOのいう「検証要請」と報道の「申し立て」とは微妙にニュアンスが異なる。また、審議見送りについても同様にベタ記事(3月14・15日)ばかりだったことを申し添えよう。

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