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♪大マスコミの世論調査と麻生「あげ足とり報道姿勢」

めまぐるしく変わる国際金融情勢および社会情勢、政治状況のなかで、メディアウォッチや分析がおいつかないまま、時間ばかりが過ぎてゆく。
この3ヶ月間の「報道とメディアを考える会」メンバーの関心事といえば、筑紫哲也氏が遺した言葉「ジャーナリストの役割は権力を監視する番犬」だったり、元厚生事務次官刺殺事件の一面的な報道のされ方(故人の「わたり」と受け取った退職金については触れられることがない)のほか、年末年始のニュースを独占した日比谷公園の「年越し派遣村」の似通った報道内容など。
先日は、『週刊新潮』(2009年2月5日号)に87年の朝日新聞阪神支局襲撃事件(02年に公訴時効)実行犯と名乗る男の手記が掲載されたが、これについてはテレビではほとんど取り上げられなかったように思う。当の朝日新聞では1月29日付の夕刊で、手記は事実と食い違う旨の524文字の記事があっただけ。ジャーナリズムの根幹をゆるがした大事件、「事実と食い違う」ということを喧伝しないのは少々不自然ではないか、等と考えているうちに、次の関心事が浮上し、かたちにならないまま、時間が過ぎてしまったというわけだ(事件と朝日新聞のいう事実関係の食い違いについては『週刊文春』2月12日号に詳しい)。
もちろん「定額給付金」論議をはじめとする麻生内閣の施策や予算委員会でのやりとり、急落した麻生内閣支持率をはじめとする世論(調査)の動向……等々は、重大な関心事であることはいうまでもない。2月9日の朝日新聞一面にも、極太文字で「内閣支持率最低の14%」という文字が躍った。

◆ 6万4000人が「麻生内閣に対する報道姿勢にノー」

昨年末、ニコニコ動画「ニコ割アンケート」(2008/12/16 :株式会社ニワンゴ)で、興味深い世論調査結果が出ていることを知った。麻生内閣支持率や政党支持率に並ぶ設問で、「麻生内閣に対する報道姿勢にノー、79.2%」という結果が出たのだ。
具体的には、「麻生内閣に対する報道各社の姿勢について、どういう印象をもっていますか?」という問いに対し、「国民にとって重要なことを報道してくれている」(5.6%)、「特に問題はないと思う」(15.2%)を大きく引き離し、「あげ足取り的な報道が多すぎる」と回答した人が、約8割にのぼった。
国民のメディアリテラシー力向上をねがう我々にとって、興味深いニュースであったことはいうまでもない。

JNN(TBS系)やANN(テレビ朝日系)、FNN(フジテレビ系)など、大マスコミの世論調査は、TVのニュースやワイドショーのほか予算委員会の質疑などでも、例えば「国民の8割が反対している定額給付金」といった具合に、繰り返し採り上げられている。しかし、ニコ割の調査結果がそういったオモテ舞台に出てくることはないし、メディア接触の主体がテレビである人が知ることはないだろう。まして、大マスコミの報道姿勢に対する(都合の悪い)結果なら、なおさらだ。
ちなみに12月時点でのニコ割の麻生内閣支持率は、32.8%(直近の1月28日調査で30.2%)。冒頭の朝日新聞社の世論調査結果(14%)と見比べてほしい。割合では、およそ倍数なのだ。ニワンゴでは、「新聞やテレビなどの調査結果に比べて、ネットでの支持率が高い」(ニワンゴ 2008年12月17日プレスリリースより)と説明しており、調査対象者年齢の違いなどは容易に想像できるとしても、この大きな差異は、どうも不可解だ。

◆調査方法・概要を確認する習慣をもとう

我々一般市民は、世論調査結果いえば、あたかもそれが唯一無比の正しい数字であるかのごとく、鵜呑みにしてしまいがちだ。しかし、内閣支持率に、媒体社により差が出ているのは何故か。また、「定額給付金制度に反対が8割」といった場合のもとの調査では、どういった文言の設問や回答項目であるのか、調査対象のサンプル数、調査方法等、調査概要を確認する習慣をもちたい、多くの人たちにもってほしい、と思う。
例えば、定額給付金に関して、賛成・反対の割合で論じられがちだが、実際の調査では、(定額給付金制度について)「評価する・評価しない」(FNN)であるなど、いわゆる「反対」とは、微妙にニュアンスが異なっている場合がある。
しかも、JNNの調査では「給付金制度に対するあなたの考え方に最も近いモノを」選択する方式で、「非常に評価できる」「ある程度評価できる」「あまり評価できない」「まったく評価できない」の4段階のなかからしか、選択できない。
回答者の立場に立てば、「どちらでもない」(評価ゼロ)をまんなかに加えた5段階であるほうが答えやすく、リアルな結果がでるのではないかと素人考えで思うのだが、この中間層を、敢えて振り分けさせたいという回答設定の意図が読み取れるのだ。

◆RDD方式では高齢者や主婦の回答者が多くなる

近年の調査法の特徴に、コンピュータ活用がある。例えばいまや世論調査の主流になっている「RDD(電話)方式」。RDDは、Random Digit Dialingの頭文字で、コンピュータの乱数計算を元に電話番号を発生させて架電、応答した相手に、コンピュータの音声で質問しプッシュホンで回答する方法だ。電話帳に非掲載の世帯も対象にできるなど、一見、恣意や作為が入り込めず、公正・公平な調査に思える。
しかし、冷静に考えてみればわかるように、そもそも「固定電話」はどういう人がとるのか……が調査結果を左右する。RDD方式の回答者は一般に下記のような傾向があるといわれている。
  ・高齢者>若者
  ・女性>男性
  ・無職(専業主婦・年金生活者)>有職者
  ・一戸建て>マンション
  ・町村>大都市
つまり、高齢者・女性・無職・一戸建て・町村の方に偏った意見を収集してしまう。また単身者世帯が急増するなか、携帯電話やIP回線だけで、固定電話そのものをもたない層も出現しているが、こういった層の意見は、まったく反映されないことになる。
このほか、RDD方式では、調査主体に好意的であるかどうかで、回答率や回答内容が左右される傾向にあるそうだ。例えば、朝日新聞社の世論調査には回答拒否しても、NHK調査には応じる……といった人たちがいることは容易に想像できるだろう。我々「報道とメディアを考える会」メンバー間では、全員が職業をもち、多忙であるせいか、自宅で世論調査の電話を受けたとしても、朝日新聞社もNHKにも、「回答する」者は皆無だったことを申し添えよう。実際、あなたなら、どうするだろうか。

◆朝日新聞社の40倍の母数をもつニコ割世論調査

ところで、こういったRDD方式のデメリット等についても、統計学的には、調査対象全体の母数(サンプル数)が大きければ、大きいほど、より正確な世論を反映すると考えられる。しかし、各社の母数(有効回答数)をみてみると、下記のとおりで、(あんなに大々的に喧伝するのに)意外と少ない、と感じてしまった。「ニコ割」(08年12月16日実施)では8万616人と、朝日新聞のサンプル数の約40倍だったからだ。

・ 朝日新聞社世論調査(2月7・8日実施)………………………2036
・ JNN世論調査(2月7・8日実施)……………………………1200
・ 報道ステーションANN世論調査(1月11・12日実施)……1000

インターネット調査は、もちろんPCおよびインターネットユーザーでなければ回答できない、サイト自体の特徴や特殊性による嗜好など、回答者プロフィールによるバイアスがあることは理解できる。しかし、8万人超の意見を吸い上げていることは事実なのだ。大マスコミはこの意見にも耳を傾けるべきだ。

ここで、ニコ割アンケートの調査方法を紹介しよう。
ニコニコ動画で、動画を視聴中の全ユーザーを対象に行われるもので、アンケート開始時に動画再生部分で一斉に実施されるもの。アンケートの開始時や日程は不定期でしかも告知していないため、多くのユーザーの意見が反映される仕組みになっている。もちろん、インターネットを使う、動画を見ている、ニコニコ動画のユーザーが対象でしかないから、若年層が多く、世論一般とはいえないし、実施主体もその点は、よく理解したうえのデータであることを強調している。

ニワンゴではこの独自の調査方式について、「ネット世論調査は、不特定多数のユーザーが、同時刻にアンケートに参加するという調査形態であるため、これまでのネットを活用したアンケートと異なり、組織的な投票が非常に困難になっています。また、また従来ネットでは、声の大きな少数派の意見がクローズアップされる傾向にありましたが、(中略)リアルなネット全体の意見調査が可能です」(2008年12月17日 プレスリリースより)と説明している。

いずれにしろ、世論調査結果は、そのまま一人歩きする数字を鵜呑みにするべきではないということだ。とくにTV画面のショルダーに出てきたときには要注意。いまはホームページなどで確認できるので、ネタもとにあたり、複数の調査を読み比べ、また国会やTV番組などで、どう使われてゆくかを一人ひとりが自覚的にウォッチして読み解くことが必要だろう。

少なくとも、麻生バッシングの報道姿勢に対し、ニコ割回答者の約8割、つまり約6万4000人が、「あげ足とり」的な報道姿勢を問題視したのは事実だ。
世論調査のあり方や数字に対しても、国民は、いずれはいまと違った考えをもつようになるのではないだろうか。
地上波TVの視聴率も低迷し、新聞購読者数も激減するなか、大マスコミは国民(=情報の受け手)のジャーナリズムに対する期待を忘れて、「裸の王様」のまま歩み続けてしまうのだろうか。


[参考サイト]
★最新版! ネット世論調査「内閣支持率調査 2009/01/28」ニコニコ動画
(登録が必要)
http://www.nicovideo.jp/watch/nm5973257

◆ ニコニコ動画 ニコ割アンケート結果(2008.12.17)
(動画版)
http://www.nicovideo.jp/watch/nm5566789
(テキスト版:調査の結果詳細)
http://www.nicovideo.jp/static/enquete/o/20081216.html

◆(株)ニワンゴ プレスリリース(2008.12.17のpdf)
http://info.niwango.jp/press/2008.html

◆JNN世論調査(TBS系)
http://news.tbs.co.jp/newsi_sp/shijiritsu/

◆報道ステーション・ANN世論調査(テレビ朝日系)
http://www.tv-asahi.co.jp/hst/contents/PublicOpinion/cur/index.html

◆朝日新聞 世論調査 質問と回答(2009.2.9)
http://www.asahi.com/politics/update/0209/TKY200902090263_01.html

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◆ほんとの姿を見せてくれ───政党発ネット考

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